私はシェアハウスに住んでいる。
一応断っておくが、間違っても某リアリティー番組のようなお洒落なものではないし、込み合った恋愛事情も存在しない。
そして今、その脱衣所には100円玉が落ちている。
洗濯機の下に潜り込んでいるが、浴室から気づけるところに落ちている。
そしてそれはこの3週間、ずっとそこにある。
誰か気付いていないのだろうか??
私は財布を浴室に持ち込まないし小銭を裸で持ち歩くことはないので、その100円玉は間違いなく私のものではない。なので拾わない。
みんなに声を掛けようかとも思ったが、そんな3週間も忘れられた100円なんてそもそも自分のかどうか覚えていないだろう。きいたところで該当者不明からの私のものになる未来が見える。
いっそ何事もなく拾えばいい、とも思ったが、公道で落ちているどこぞの赤の他人のかも分からない100円玉ではなく、間違いなくここの住人のうちの誰かの100円玉なのでなんとなく忍びない。
それかもしくは存在を忘れてずっと放置し、このシェアハウスに古くから伝わるものとして家と共に歴史を刻む100円玉になる、というのもアリだななんて思うのだが、本来価値あるものとして色んなものと交換され多くの場所を渡り歩くはずの100円玉が、うっすら暗い洗濯機の下でほこりをかぶっている様子をまた忘れた頃に見つけるのは、想像しただけで気が引ける。
今の私は、みんなの水回りの散った水滴を拭き上げ、洗面器に落ちている髪の毛を拾うような気遣いができる人間よりも、その100円玉を躊躇するという思考すらよぎる暇がないくらいに躊躇なく拾えるような、そんなほんの少し無神経で図々しい人間になりたいのである。
あーあ。ある日誰か気付いて拾ってくれればいっそのこと清々しいのに